「ダブル−W−」トップ

第一回:「堤防から続く道」

2007年5月15日

こんなところから自分の家を見たことがなかった。

不思議なものだ。いつも見慣れた我が樋上団地が全然別の建物に見える。

いつも団地から、川の流れとその先に続く海をみていたのに。

そしてあの島に移住して秘密基地なんか作ったら楽しいんじゃないかとか子どもの頃想像してた。

今だって、この道の脇の草むらに作ったら楽しそうだと思う。

テロ集団の隠れ基地だと思って手榴弾を投げ込まれるかもだが。

子どもの頃遊んでいた堤防にはゴルフ場しかないと思っていたのに、いつの間にやら道路が出来ていた。

どこまでこの道路は続くんだろう。いつかその先に行ってみたいな、と眺めていたら、

今日はいきなり島へと強制移動。

荷造りする暇もねえ。

海からみると、逆に自分たちが住んでいた側が島に見える。

だが、島に行くのは俺たちだ。

「ダブル」と呼ばれることになるその島は、混血児ばかりが住む街になる。

こんなことになったのは、あのビルにヒコーキが突っ込んでからの数年間だ。

平和だと思ってたのに、いつの間にやらテロはどこにでもある風景になった。

〜人が井戸に毒を入れたっていうのが悪意ある伝聞だったのは100年前の話で、

今じゃみんな水筒を持ち歩いている。ハーフがテロをするって。

水も安心して飲めやしない世の中は確かに辛い。犯人を造りたくはなる。

電車に何度も爆弾が仕掛けられたからって、網棚もなくなり、

耐熱、耐爆のネームプレート(昔は軍隊の認識票だったのに)が恋人同士の証になっちまった。

跡形もなく吹っ飛ばされるっていうからなあ、最近の爆弾は。火炎瓶とか目じゃないから。

ほんとなら指輪だろう。愛する人に贈る物は。平和な時代なら、だけど。

それにしても、たまたまそういうことをするやつらの中に敵?国?人が混じっていただけなのに、

なぜその血を引くわれわれまでが隔離されにゃならんのだ。

どっちかっていうと、両方の血を引く俺たちはどっちの味方でもない。

でも、きっとそれが一番怖いんだろうなあ。

どっちからも敵に思えるもんなあ。忠誠ってやつを見せようとあがいて、何たら部隊に入ったやからもいるが、扱いはやっぱしひどいらしい。

多くの人は、何にもしなかった。

何にもしなかったから、みんなこうして、このどこまで続くか分かっているけど分からない道を歩く羽目になっている。

行き先はわかっても、俺たちがどうなるか、それがみんなわからない。
反感の波が、矛先がどこに行くかなんて、サーファーじゃないしわからない。

波に乗らないことだけは選択できるけど。

この未知が続く先は、おっと道だ。変換間違い。

この道が続く先は、俺たちみたいな中途半端なやつらが行く町だ。

しかもこの中途半端って言うのが、生き方とか努力とか、何かそういうのならまだいいんだけど、

単純にちょっと地理的に離れてて、親が〜人って言う時に両方同じ民族じゃないだけなんだけど。

ついこの間まで、肌の色とか顔の造りが違う片親だとアイドルとかモデルとかでちやほやされてたのになあ。

俺なんかアジア系だから、ハーフっていっても中途半端やなあ、としか思えなかった。

「ダブル」って言葉を聴いたときは、楽観的な俺にピッタシって思った。

両方のルーツを持ってるってことらしい。

単純にシングルより、ハーフよりウイスキーはたくさん飲める。

それぐらいのラッキー感は、ほしいものだ。

まあ、もともと住んでたところも辺境だし、陸の孤島みたいだったから、電車でどっか行けなくなるぐらいなもんだろう。

あと仕事と。

とにかく、俺たちが住んでた本国は、隣国ノスコリアと戦争状態に入り、敵国民と通じている可能性がある俺たちのテロを恐れて、国は隔離政策を取った。2007年5月15日のことだ。

photo by kusukiyu