第二回:「百済寺公園 vol.1」

登場人物
蛍子
ゆうの祖母
はと

百済とはお隣の朝鮮半島に昔栄えた国の名前だ。僕の父方の先祖の両班が仕えた李氏朝鮮よりも大分前、日本だと聖徳太子ぐらいの時代のはず。近くに小学校があってそれが明倫小学校といったりして、務めていた場所も元は明倫小学校と呼ばれていて何らかの因縁があるのでは、と思わせる。はとの声と学校のチャイムがいい感じの交響曲を奏でる。

ここは古墳もあったようで、出土品があるらしい。小学校時代に呼んだ本や抱いた夢を思い出させる。ピンカートン探偵社やツタンカーメン王の話を読んだなあ。
ト、年配の女性と蛍子が話しをしている。年配の女性の話を聞いて蛍子が笑い声を上げる。彼女はゆうの祖母である。

祖母:泣き虫だった、ほんと。うるさかったあー。

蛍子:(笑)

祖母:文子に会った?親なのにあの子がよく溝とかにはまったことを嬉々としてよく話すのよ。

蛍子:(笑)おばあさまもですよ。

祖母:はは、あの子は何かいってた?

蛍子:いえ、何にも。逆にちっとも心配してない感じでした。

祖母:そう。あんまり親には心配かけない子なのかも。・・・よく病気する子だったけども。

蛍子:あ、入院した話とかは聞いてます。幼稚園はいる前だったって。

祖母:そう、あそこの関西病院に入院してねえ。

蛍子:看護婦さんが美人ばっかりだったとか言ってましたけど。

祖母:どうだったかなあ。。

蛍子:いや、・・・。小さいころのことでしょう。覚えてるわけ、・・・そういうとき、やっ・・・・・・

ト、蛍子の顔を覗き込む祖母。足元のありを追いかける蛍子。足で払ってから、蛍子はある方向を指差す。

蛍子:あれ、なんですか?

祖母:ええと・・・。

ト、蛍子の指先を見る

祖母:あれは考古学資料館。

蛍子:あ、やっぱり古墳なんだ、ここ。

祖母:つい最近も掘り出されたみたいでねえ。百済の国の王族が日本に亡命してきておっきな建物を立てたみたい。

蛍子:百済って朝鮮の?聖徳太子のころですか?

祖母:そう、だったかしら。なんか、ただの柱のあとみたいだけど。

蛍子:なんか不思議な感じしますねえ。そのころの子孫とか生きてるのかなあ。

祖母:そうねえ。その人たちも・・・ゆうの仲間よね。朝鮮の血を引いているって。

蛍子:ゆうのお父さんが朝鮮の方なんですよねえ。

祖母:そう。うちに来たときは正直びっくりしたけどね。結局お父さん・・おじいちゃんが何にも言わないから、私も何も言わなかったけど。

蛍子:はあ。・・・やっぱり、・・・いろいろ?

祖母:うーん。多少は少し、いろんなこと考えたけど。ゆうはそういう話するの?

蛍子:ん・・・・・・、彼は・・・自分はダブルだって言ってました。

祖母:ダブル?

蛍子:欧米では日本でハーフとか混血とか言うところをダブルって表現するんです。両方持ってるって。

祖母:どっちつかずって嫌われるからね。単純に国籍のことなのに大問題にしちゃう人もいるし。

蛍子:・・・そう、両方から攻められる可能性があるって、・・・笑って言ってました。

祖母:そうね、でも・・・笑っていえるんだったら、ほんとに反対しなくて正解だった、かな。時代が、・・・ほんとに変わったのなら、それは本当にいいこと。

蛍子:そうですよ。

祖母:文子も悩んだのかなあ。やっぱり・・・その辺話したことないのよ。

蛍子:そう・・・、・・・ですか。

祖母:智美ちゃんはどうだったのかなあ、・・・・・・あ、

蛍子:あれ?・・・あ・・・あの・・・気にしないでください。

祖母:・・・・。なるようにしかならないからね。今幸せ?なら大丈夫。・・・・。

蛍子:いえ、・・・。

祖母:・・・わざわざ追いかけて来たの。

蛍子:いや、そんなんじゃないんですけど。もう30近いんだし。大人だし。

祖母:え?

蛍子:いや、そんな、心配はしてないんですよ・・・。でも・・・。

祖母:・・・・・・。

蛍子:何かと重なってたみたいだし・・・。

祖母:仕事やめた、とか・・・。

蛍子:ええ。それは分かってたことみたいなんですけどね。

祖母:大問題よね。無職ってことでしょ・・・?

蛍子:そう、なんですけどね。まあ突然消えちゃったから。

祖母:周りが、心配する。

蛍子:ご家族は心配してなさそうですね。

祖母:あの・・・・・・一緒に暮らしてるんだっけ?

蛍子:いえ、それはまだ・・・、あの、頭ちゃらんぽらんなんですけど、保守的なんですよね。

祖母:固いわねえ。

蛍子:ええ。・・・がんこなんですよ、いまだに。

祖母:ふうん。

蛍子:この前、あの、おうちにお邪魔したとき、この近くの神社を回ったんです。で、そのときに、手をつなごう、っとかいきなり言い出して。そのときは急だったんで、ちょっといろいろ、意識しすぎたというか、つながなかったんですけど・・・。

祖母:・・・。ふふっ。(微笑む)

蛍子:はは。ちょっと後悔、みたいな。あ、あの人、後悔するのも好きだとかよく言ってたなあ。変な人だ。

祖母:そうだね。何かそういうこと言ってた気がする。

蛍子:俺は、だから決断早いんだ、とか何とか言って。結構スロースターターだし、優柔不断なときもあるのに。

祖母:心配?

蛍子:ちょっとね。・・・・・・。突然、てわけでもないのかもしれないけど、思いついたらすぐの人だから。・・・でも

ト、はとが降りてくる。変な声を出して鳴いている。蛍子は突然立ち上がり、はとに話しかける

蛍子:クルルルルル、クルルウルウルウ。クルルルルルルウルル、クルルウルルルウルルルル。

祖母:なにやってるの?

蛍子:はとに話しかけてます。・・・・。

祖母:なんて?

蛍子:ゆうとここに来たときも「なーにやってんだ」って笑われました。

祖母:小学生たちに笑われるよ。

蛍子:あっ、かわいいなあ。1,2年生かな?社会見学?

祖母:そうじゃない?先生見かけたし。・・・・・・ゆうの担任に似てたなあ。

蛍子;担任の先生とかご存知だったんですか。

祖母:小学校のときはねえ。帰りはいっつもここの家に遊びに来てたの。

蛍子:ご両親、共働きだったんですか?

祖母:ええ、そのときはね。で、一度家庭訪問代わりに受けたの。

蛍子:へえー。

祖母:そのころのことはあんまり覚えてないだろうけどね。

蛍子:かわいがってもらったこととか。

祖母:うん・・・。

蛍子:ふうん。・・・・・・・。よし。伝えます。おばあさまにかわいがられてたんだよ、君は!って。