第四回:その1「淀川沿い河川敷のグラウンドベンチ」
■登場人物
蛍子
とし(田中)
枚方は実は水難の町だ。堤防があり、いまでも洪水に備えた倉庫がある。でもこの堤防が子供のころは格好の遊び場だった。
今はコンクリートで舗装されてしまっているため危ないが、草が生えていたころはダンボールをしいてそりをして遊んだものだ。
本当に雪国の子達が遊ぶようにそりで風と一体になった。
秘密基地なんかも作った。何やかやといろいろ持ち込んで。
今から考えると雨が降れば一瞬でお陀仏だったのだが、あんまりそれで泣いた記憶はない。
そして川向こうの(淀川の支流を越えたという意味)空き地に広がる河川敷グラウンド。よくサッカーをしたね。
野球はボールが怖いし、球がどこかへいってしまうのでぼくのなかではNGだった。”たいこ”などはよくしたけど。
サッカーボールが川に落ちそうでひやひやしたことは何回かあったのだが。
フェンスをゴール代わりにしてクリエイティビティーを発揮して。
ト、河川敷のグラウンドのベンチで蛍子とゆうの親友のとしが会話している。サッカーボールが横にある。
蛍子:ここで練習してたんですか?
とし:そう。マウンドでこけそうになりながらね。
蛍子:危ないじゃないですか。
とし:あいつは良く転んだなあ。ガタイがいいほうじゃないから。サッカーは格闘技だし。
蛍子:でも結構真ん中だったんでしょ。ポジション。
とし:まああいつがなりたがったところがあったしな。
蛍子:へええ。でも変なこととかしそう。
とし:そうそう。やってた。ヒールリフトとかって知ってる?
ト、としはどういう動きかやってみせる。
とし:これ、普通はできないでしょ。っていうかゲームの中でやらないでしょ。
蛍子:漫画とかではやってるんじゃないかなあ。
とし:そう、それ。そういうことを本気でゲームの中でやろうとするんだから。
蛍子:決まったことあるんですか?
とし:ないない。でも惜しいことは何度かあったな。
蛍子:へえ。
とし:哲生に阻まれてたけど。
蛍子:ああ、哲生、さんはキーパーだったんですね。
とし:そう。あいつもファインセーブを狙いたがるのか、単に技術不足なのかパンチングが多かったなあ。
ト.としはまたもやって見せる。その様子を楽しげに見ながら蛍子はかなたを見つめる
蛍子:演劇でもおんなじでね。漫画とか良く引用してましたよ。
とし:だろうな。
蛍子:「人間が想像しうるものでわれわれに創造できないものはない」って。
とし:?
蛍子:イメージしうるものでクリエイトできないものはないってこと。
とし:ああ。サッカーでも似たようなことをいってたぞ。「サッカーに必要なものはイマジネーションとクリエイティビティーだ」って。
蛍子:それ、演劇でそのまま言ってた。「演劇に必要なものは想像力と創造性だ」
とし:それも漫画からの借用だな。
蛍子:言葉遊びみたい。
ト、としは首をひねって思い出すかのようなしぐさをする。
とし:でも高校ん時の卒業アルバムでは座右の銘、自分の言葉だってじまんしてたぜ。
蛍子:「自進」
とし:「自信」
蛍子:「自新」
とし:多分、単なる駄洒落好きだな。(笑)
蛍子:何か頭でっかちそーな高校生。
とし:そういう感じだな。あいつ、使う言葉がやたら難しくてさ。ただ、なんか、こう・・・。
蛍子:?
とし:なんていったらいいかわかんないけど、有言実行っていうか。
蛍子:うーん。ほめすぎじゃない。言葉に縛られてるっていうかんじ?
とし:うん・・・。そうかもな。頑固だったし。
蛍子:頑固頑固。
とし:で、も、結構あいつがいったことでやれなかったことは・・・あんまり知らんな。
蛍子:挫折を知らぬ高校時代?
とし:ふうむ。そうなんかなあー。無敵感ってだれしもあるやん、そのころって。こう、現実がちょっと、見えてきてるけど、自分ならできる、っていうか、夢かなえるぞ、とまではいかないけどやりたいことやるんだ、俺は!みたいな?
蛍子:うーん。そう、・・・かな。
とし:まあ考えてみると大学受験はやっぱり挫折だったんだろうなあ。二度も挑戦してさ。
蛍子:ふうむ。
とし:ほんと、やりたいって言ってたことは、傍からやってたからね。俺からしたらすごかった。常識とか、なんていうの?こう、恐れって言うか、そういう変な躊躇がないんだよね。危険物取り扱いとかまで取っててさ。
ト、としは微笑む。
とし:まあ、上しか見ない、上だけを努めて見てるって感じだったなあ。
蛍子:あ、それ、親にもそういわれたっていってました。うれしかったとか、いってました。
とし:まああいつが足元を見るときは、まっさかさまに落ちていくときかもな。
蛍子:ふうむ。・・・・・・。
とし:まあ、言葉にしばられるやつだからな。
蛍子:最近・・・・・・言葉、少なかったですけど。・・・・・・川のにおいがする。
とし:淀川がすぐそこに流れてるからね。
ト、蛍子は立ち上がって向こうの淀川をみる。
蛍子:氾濫したりするんですか?
とし:え?ああ、一度めっちゃ水浸しになったことあったなあ。
蛍子:だから、あれ、あの向こうの倉庫、ちゃんとあるんですよね。
とし:そう。水防のだよ。ほんとにねえ、このグランドとかも水はけ悪いしねえ。
蛍子:へえー。前にゆうがいまだに堤防には水防の倉庫があるって話をしてて、俺たちも災害にあったとき出会えるようにルール決めとこうって。
とし:へえー。待ち合わせ場所?
蛍子:そうそう。
とし:どこ?
蛍子:あのー・・・・・・八幡の背割れ堤。
とし:え?洪水じゃないの?
蛍子:いや、あのときは何か地震の話に。桜見たら元気になるから、とか何とか。
・・・・・・そこでデート?みたいなことしてただけなんですけど。
とし:4月じゃなかったらどうするんだよなあ。あそこでバーベキューよくやったよ。
蛍子:あっちの方とかでもバーベキューやれそうですよね。
ト、蛍子は芝生を指差す。
とし:そういえばあの辺で体育祭のダンスとかやったりもしたなあ。
蛍子:彼はそういうのめんどくさがる方でした?
とし:どうかな?文化祭の芝居はほんと真剣にやってたけどなあ。ただ、
蛍子:ただ?
とし:そのときは何か、・・・智美ちゃんじゃないんだけど、あいつが仲良くしゃべってた女の子が、・・・みんなを動かすのに苦労しててさ、
蛍子:女の子めあてか。
とし:かもしれないけど、あいつは結構孤高の人を気取ってたというか、文字通りそうだったというか、そんな感じなのに、がらにもなくみんなに声かけてたなあ。
蛍子:そうしたら?
とし:そうしたらクラスに一人はいるリーダー好きなやつが本領発揮しだしてまともにやりだした。
蛍子:ふーん。
とし:でもそういうこと自身は向いてたのかなあ?
蛍子:ん?
とし:いや、今の仕事、近いやん。
蛍子:多分好きではあると思いますけどね。
とし:マネジメントの本とか読んでたなあ。サッカーチーム作り始めのとき。
蛍子:日経文庫。
とし:そうそう。
蛍子:あの人の本棚、サラリーマンでもないのになぜかビジネス文庫が並んでるんですよね。しかも漫画の隣に。
とし:乱読は昔から変わってないよね。よっく本読んでた。おれは本嫌いだけど。
ト、雨が降ってくる。
とし:これぐらいの雨ならすぐやむんじゃないかなあ。ちょっとあそこで雨宿りする?
蛍子:ええ。でも、しばらく、このままで・・・
ト、霧雨のような雨を見つめながら思い出す蛍子。4−2へ
ト、蛍子は雨宿り場所に帰ってくる。
蛍子:早朝サッカーとか話をよく聞きました。
とし:グラウンドが空いてたのが早朝だったからなあ。でもそうやって場所取り出したのも、大会とかに出たりしたのもみんな、あいつがやってみようぜっていってすぐに行動したからだけどなあ。
蛍子:行動早いですよね。後先省みずっていうか。
とし:あの実行力はすごいぜ、実際。だから今回のも、なーんか思いたった日が吉日って感じじゃないのかなあ。
蛍子:ほんと、そんな感じします。
とし:なーんかいきなりサッカーしようぜって今にも携帯かかってきそうな気がする。
蛍子:迷惑ーーー。
とし:大体いきなりだったなあ。スラムダンク読んでバスケしたくなった、とか。
蛍子:思いつきで行動しすぎ。
とし:でも俺も今日はなーんかサッカーしたくてね。
蛍子:一人ででも?
とし:何かたまにね、したくなる。
蛍子:ああー。・・・お邪魔してすみません。
とし:懐かしい話ができたし。よかった。カワイイコとも会えたし。
蛍子:哲生さんと違って、田中さんはまじめだと思ってたのに。
とし:技術屋やってると女の子と話すの貴重だし。
蛍子:ありがとうございます。
とし:どういたしまして。しかし雨やむかな・・・。
ト、雨を見つめる二人。
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